ロービジョンケア関連情報

vol.13 視覚障害ピア・カウンセリングの現場から

情報文化センター 新井美千代

2022年5月1日

 私は網膜色素変性症により40歳のころにロービジョン、そして、その数年後には全盲となった「中途視覚障害者」です。これをバックボーンとして、名古屋ライトハウス情報文化センターにて20年近く、当事者相談員、どちらかといえばピア・カウンセラーとして仲間の支援に携わってきました。全盲となりそれを機に小学校教員を退職し、その後は、満たされない子供たちの話を聞けたらと思い、カウンセリングの勉強をしました。が、あるとき、私がお話を聞かせてもらうべき相手は、子供ではなく、私と同じように「人生半ばで目が見えにくくなりつらい思いをしている仲間」ではないかと気がついたのです。地域には、点字触読、白杖歩行、音声パソコンを学ぶ場はありました。しかし、治らない進行性の病気を診断された時、症状が進行して不自由を自覚し始めたときの苦しさを受け止め共感してくれるところはありませんでした。

 自分を振り返ると、本当に苦しかったのは視覚障害がある人の生活をなにも知らずにただただ「見えなくなることは闇の世界、無能力で孤独の世界」と自分なりに想像しておびえていた時代でした。その呪縛から私を解いてくれたのは患者・視覚障害の仲間との出会いでした。

 他愛もないことを失敗することの口惜しさとみじめさを共有できた時、新たな道を歩みだしている仲間の話を聞いた時でした。また、地域で働く全盲の方に話をお聞ききし、見えなくなることは決して無能力の世界孤独の世界ではなく、これからの自分にも可能性があることを知った時でした。

 私が当事者としてお話を聞かせていただくのは、ケースワーカーさんのように制度などを紹介するのではなく、見えにくくなった自分を受け入れることが難しいその気持ちに共感すること、そして様々な工夫によって不可能をそれなりに可能にできていること、今の私の姿に出会っていただくことで「視覚障害の世界」に可能性を感じてもらうことだと思っています。

 ピア・カウンセリングを学んだ時に心にしみた「仲間を救うのもピア、傷つけるのもピア」「ピアからの言葉は逃げ場がない」ということは忘れてはいけないと心しています。そして、初めてロービジョンの方と出会うときはいつも、あのつらかった40歳代の私になって対応させていただいています。

 一言も発せずに母親のそばにいた30代の男性が帰り際にぼそりと「リハセンの電話番号を教えて」と言ってくれた言葉、また別の場面では「あんたのような全盲の人と私は一緒じゃないので・・・」と言った方が、次に会った時「あんたに話を聞いてもらいたかった。目が不自由になったら幼稚園児扱いされた。この悔しさはあんたにしかわからん」と言ってくれた言葉、これらをお聞きした時、私も少しは役に立っているのかなと感じました。

 私がつらかった時代から20年がたち、眼科医療の中にロービジョンケアの場が設けられるようになりました。視機能が回復できないと伝えられた患者さんにとってどれだけ心強いことかとうれしく思います。

 同時に、初来館の方の中には直接ご利用に結び付く方、センターの存在を知っていただけたことで終わる方など様々な反応があり、当センターを初めてご来館されるについては、その方の病気の進行状態との微妙なタイミングがあることも実感しております。

 「健常の状態から視覚障害へ」それを受け入れるのは容易なことではありません。様々な葛藤があり、また人との出会いや様々な経験が相互作用してご自身の内なるものに届いたとき、はじめて患者さんの心が動き、初めの1歩が踏み出されるのではないかと思っています。

 変化に耐え得る順応力、一度は打ち沈んだとしても必ず浮き上がることのできる復活力を人は持っていると私は信じて、ピア・カウンセリング、当事者相談員を今日まで務めさせていただいています。情報文化センターでは、当事者が対応した後、用具コーナーの見学をしていただいております。また、図書館事業についても紹介します。今すぐに、用具を使わなくても、音声図書を聞かなくても、社会には見えないことを補ってくれる道具や制度があることを知ってもらうことで将来に希望を持っていただければと思っています。

 そのほか、中途視覚障害者の方にご自分の持っている能力を再確認していただく場として点字触読学習会、お料理教室、生け花、アレンジフラワーの教室を開講しています。

 この生け花は、全盲の中途視覚障害者が先生の指導を受けながらも自身がイメージし創作した作品です。

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